この記事はBrandon Vu氏とJeffery Pang氏が作った「チートコード」というヨーヨーのレビュー……に見せかけた、あるアラフォーのオッサンの日記である。
パソコン落としたマン
最近、会社のノートパソコンを壊してしまった。うっかり落下させてしまって液晶ディスプレイが全損、上のほうがちょびっと映るだけで、単体ではまったく仕事ができない。落とした瞬間、とても大きな音が鳴ったので、「ああ、これは逝ったな……」とすぐにわかった。
幸い、マザーボードやCPU、メモリ、記憶媒体なんかは無事だったので、外部ディスプレイをつなげば動くのだけど、いろんな人にドジを晒す羽目になって「とほほ」という感じである。
残念な気持ちで壊れたディスプレイを見ていると、昔のことをなんとなく思い出した。
ホンマくんとEKT48
ぼくが新潟にいた頃、1番仲良くしていたヨーヨープレイヤーがホンマくんだ。ホンマくんはこの界隈では少し有名人なので、彼のことを知っている古参ヨーヨープレイヤーは多いと思う。なんだかんだで、ぼくはもう20年くらいヨーヨーをやってきたが、「自分のライバルと呼べる人物を1人選べ」と言われたら、ぼくは間違いなくホンマくんを選ぶ。ぼくは彼にだけは負けたくないと思っているし、彼もぼくにだけは負けたくないらしい。光栄なことだ。
ホンマくんとのエピソードはいろいろあるけれど、ここではEKT48のことを話そう。
2009年か2010年くらいのことだったと思う。当時、ホンマくんがガラにもなく1Aヨーヨーのホリゾンタル系トリックを練習していたとき、事件は起きた。たぶん、ホリゾンタルブレインツイスターか何かだと思う。投げ出した直後、フリーハンド側に糸を掛けるつもりが上手く掛からず、ヨーヨーは予想外に大きな孤を描いた。そして、そのヨーヨーは彼のノートパソコンの液晶ディスプレイに直撃した。きっと大きな破裂音がしただろう。彼の液晶ディスプレイも全損だった。
当時、彼は学生だったけれど、ノートパソコンの中には大切なデータがわんさか入っていた。どんなデータかは具体的にはわからないが、たぶん男子の下半身というか、股間が熱くなるような類のデータらしい。動画なのか、マンガなのか、それはまったくわからないが、きっと綺麗なお姉さんが写っているやつだ。あるいは同級生系なのか、もしかしたら年下系なのかもしれない。あとはヨーヨーの動画とか。そういえば、学校の課題に必要なデータとかも数MBくらいはあるはずだ。知らんけど。
なんのデータが入っていたか、それはぼくにはどうでもいいが、彼にとっては是が非でも救出しなければならない何かだったらしい。彼はぼくにメールしてきた。「助けてほしい」と。当時はまだサブスクとかクラウドとか、そういったものがまだ無い時代だったので、パソコンが壊れた時のショックはいまよりずっと大きかったし、それに友人からのレスキュー要請を無視してしまっては男が廃るというものだ。
そこで、ぼくは壊れたノートパソコンと外付けのハードディスクドライブを持ってくるよう彼に指示した。壊れたのが液晶ディスプレイだけならデータを別のところに移せるかもしれない。そうして、エ○動画・救助・隊、EKT48が結成されたのだった。
ちなみにだけれど、当時はAKB48やSKE48など、秋元康プロデュースの大人数アイドルグループが人気だった時期である。別に、ぼくもホンマくんもこういったアイドルグループは好きではなかったけども、その場の悪ノリでEKT48を名乗った。「AKB48」 の偽物みたいなTwitterアカウント名を名乗るヨーヨー友達が身近にいたので、それをマネしたのである。
結局、EKT48は無事にミッションに成功した。別のディスプレイにノートパソコンを繋いだところ、他のパーツはすべて無事だったことがわかったのだ。我々はただちに必要なデータを外付けハードディスクドライブにコピーした。
ぼくらはミッションの成功に安堵して、何度もバカみたいに笑った。そして、ホンマくんは「もう2度とホリゾンタルはやらない」と誓った。
それ以後、ぼくは彼がホリゾンタルをやっているところを見たことがない。彼はぼくよりもこだわりの強い人間だから、きっとこれからもホリゾンタルはやらないのではないかと思っている。
あえてホリゾンタルやらないマン
現代のヨーヨー競技のフリースタイルではホリゾンタルやインフルエントなどの派手でダイナミックなトリックが多用される傾向がある。近年の大会上位入賞者の中で、こういった技をほとんどやらないプレイヤーはまれである。
だけど、これらの技が大会で使用されるようになったあたりの時期は、こういった種類の技に反発を覚えた者も多かったようである。ぼくやホンマくんがヨーヨーを本格的に始めたのは2003年に始まった第二期ハイパーヨーヨーの時代なのだが、ぼくらはホリゾンタルやインフルエントが徐々に流行していく過程を見てきた。
実は、当時のぼくは「あまり積極的にはホリゾンタルをやらない道」、いわば「流行に乗らない道」を選んだ。先ほどのホンマくんのEKT48事件もあったし、前回の記事で書いたイイヅカさんもホリゾンタルトリックをやらなかったからだ。
2009年にキドシンヤさんが(当時としては)数多くのホリゾンタルトリックを盛り込んだフリースタイルでヨーヨー世界大会優勝を果たしたのだけれど、それまでホリゾンタルトリックは一部のプレイヤーだけのものだった。
そして、当時を知らない人たちには信じ難いことかも知れないけども、キドシンヤ選手優勝以後も、頑なにホリゾンタルをやらなかったプレイヤーたちが居た。当時のホリゾンタルトリックはまだ発展途上で、できることが限られていたからだ。
当時、イイヅカさんにホリゾンタルをやらない理由を聞いてみたことがあるのだけど、イイヅカさんは「ホリゾンタルで自分の個性を出すことは難しい」と考えていたそうである。トッププレイヤーであるイイヅカさんの意見を底辺プレイヤーのぼくが参考にするのは、いま考えると適切ではないのだけど、ぼくは「なるほど」と思った。当時のぼくには自分の意見や軸というものがなく、他人の意見やアドバイスを上手く取捨選択する能力がまだなかったように思う。そんなわけでぼくは他の人の意見に流されるような形で、「ホリゾンタルをやらない」という流行から外れた道を選んだのである。
新しい種類の技や流行の技を自分も取り入れるべきか、取り入れないべきか、という問いはきっとどの時代にもあると思う。その答えは人によって違うのだけれど、ぼくは自分の頭で考えずに他の人の意見をなぞってしまった。どちらの道を選択するのも自由だけど、自分できちんと考えずに道を選ぶのは良くないことだったと、今では思う。
絶対フィンガースピンやらないマン
さて、ホリゾンタルで投げたヨーヨーを指の先に乗せる「フィンガースピン」という技がある。もともと、ヨーヨーを指先に乗せる技として「サムグラインド」という技があったのだけれど、サムグラインドはあまり流行らなかった。というのも、ヨーヨーの外周部を指に引っ掛けるサムグラインドはヨーヨーの回転を著しく消耗するので、そこから別の技に発展させることが難しかったのだ。これに対し、フィンガースピンはヨーヨーの中心を指先で支えるので、サムグラインドよりも長時間、回転を維持できる。
最近、YoutubeやInstagramでDNAという技をよく見かける。これはフィンガースピンの状態から糸を巻き取らせる際、上手くやると糸がDNAの螺旋配列のように動く、という技だ。
さて、ヨーヨー界で1番有名なYoutuberはブランドン氏という方らしいが、彼はDNAで有名になったらしい。このあたりの経緯はよく知らないけれど、Youtubeのチャンネル登録者数が確か100万人くらいいたんじゃなかったかな。日本語話者よりも英語話者のほうがフォロワーを獲得しやすいとはいえ、とんでもない数字である。
ぼくはホリゾンタルをやらないという道を選んだ人なので、フィンガースピンも遊び程度にしかやらなかった。だからもちろんDNAもできなかった。でも、なぜかフィンガースピンやDNAを大したことない技だと見下していた。自分には手の届かない、高い位置にある果実を「あれは酸っぱいから要らない」と決めつけるキツネのたとえ話があるが、まさにそんな感じ。
ぼくは2015年のヨーヨー世界大会のあたりから、1Aヨーヨーに情熱を傾けられなくなっていったのだけど、いつしかフィンガースピンのことをしょうもない、おもんない技だと思うようになっていた。
あえて流行の逆を行くマン
子供のころ、ぼくは流行というものに無頓着だった。芸能人の名前はだいたい知らなかったし、流行りの音楽も聞かなかった。
小中学生の頃は流行に疎かったせいで、周囲の人たちから「流行の〇〇を知らないなんておかしい」と幼稚なマウントされること多かった。そういうのが煩わしくて、ぼくは流行をありがたがる人たちに近づくことをどんどん避けるようになっていった。そして、いつしか、ぼくは流行から外れる道を意図的に選ぶようになっていた。流行をどんどん取り入れる道を選べればきっと楽だったんだろうけど、ぼくはそういうことができない子どもだった。
そんなわけで、ぼくにとって流行に抗うことはごく自然な行為だった。具体的には少年ジャンプではなく少年エースを読んだり、ワンピースを読まなかったり、「けいおん!」みたいな萌え系日常アニメを極端に嫌ったり、カラオケではみんなが知らない曲ばかり歌ったり、お笑い番組を見なかったり、まあ、いろいろ。そのせいで集団の中にいても疎外感というか、居心地の悪さを味わうことが多かったのだけど、そりゃ自業自得ってやつだよなと今は思わんでもない。
いま思えば、若いころのぼくは何かにつけて斜に構えていた。物事に正面から対処しないで、皮肉な態度で臨む、そんなタイプのいやなやつだった。
アラフォーだけどAdo聴くマン
ぼくは結婚してから気づいたことがいくつかある。そのひとつは「売れてるモノはどれもなかなか良い」ということだ。売れているモノ、言い換えると、多くの人が評価しているモノはどれも一定のレベル以上の良さを持っている。ほんとうにひどいモノがたくさん売れることはないのだから、そんなの当たり前だ。でも、ぼくはなぜかそんな当たり前のことがわからなくなっていた。
それに気づいた最初のきっかけは、コロナ禍のゴールデンウィークでの自宅引きこもり期間。ぼくは蛇蝎のごとく嫌っていた「ワンピース」を一気読みした。ワンピースは少年ジャンプで長年トップの人気を維持している、言わずと知れた大人気漫画である。とんでもなく、おもしろい。大した理由もなく、こんなすごい漫画のことを長年スルーしていた自分を恥じた。
そのあと、ぼくはAdoや米津玄師、YOASOBIなどの流行りの音楽を聴いてみたり、お笑い番組を観てみたり、とにかく、ぼくが大した理由もなく嫌っていたものを次々体験してみた。そしたら、意外なことに、どれもわりとおもしろかったのである。
「例外もあるやろけど、売れてるモノってどれもだいたいええもんなんやな。」
ぼくが妻にそう言うと、「そんな当たり前のことも知らんかったのん?」と妻は驚き、おかしそうに笑った。
そういえば、世の中のオジさん・オバさんの多くは、若いときに聴いた音楽をずっと聴き続けるらしい。年を取ると皆、自然と流行から遠ざかるようになるみたいだ。不思議なモノで、天の邪鬼なぼくは何故か、いまも逆の道を歩いている。
ベラ・フリースタイリン女史
結婚してから妻の影響で、Instagramをはじめた。ほとんど見る専門だが、資産形成とか、プロレスとか、ストレッチとか、筋トレとか、ランニングとかの動画だとかをよく観ている。
ぼくはもともとヨーヨーの動画を観るのより、自分でプレイするほうが好きな性格である。特に2015年のヨーヨー世界大会以降、2022年か2023年ごろまでの期間は、ほとんどヨーヨーの動画を見ていなかった気がする。
ある時期からベラ・フリースタイリンという女の子をInstagramでよく見かけるようになった。12万人以上のフォロワーのいるヨーヨー系インフルエンサーだ。どうやらyoyo factory所属らしい。ヨーヨーの動かし方になぜかぎこちなさのあるプレイヤーだが、よく見ると多彩な技をやっている。しかもなかなか難度の高い技だ。そして、動画の最後はたいていフィンガースピン、DNAで閉める。
ベラ・フリースタイリン女史は毎日のようにInstagramを投稿している。彼女の動画を見ているうちに、ぼくも久しぶりにフィンガースピンをやってみたくなった。流行に乗ってみるのもまぁ悪くないと、素直に思ったのだ。
チートコード
しかし、ぼくにはフィンガースピンをやるためのヨーヨーが無い。
どれ、フィンガースピンに適したヨーヨーをひとつ買うかと思い、いろいろ物色したが、貧乏性なのでなかなか決められない。
C3ヨーヨーデザインのスピーダホリックFXあたりがいいかなぁと思っていたが、今年に入ってから、yoyorecreationのヨーヨーを2つも買っていたので(先日紹介?したトオル0.999とサの2つである)、1万円くらいの使ったことのないヨーヨーを買うのは気が引ける。
そんなことを考えていたら、数日後に「そろはむ大創業祭」が開催されるということを耳にした。ヨーヨーショップスピンギアを運営する株式会社そろはむの年に一度の大セールである。あまり期待していなかったが覗いてみることにした。
セール一覧を見たところ、チートコードというフィンガースピンに特化したヨーヨーもセール対象のようだった。前述のインフルエンサー、ブランドン氏が作ったヨーヨーらしい。割引額は30%からスタートして、セール期間後半になるにつれ、徐々に割引率が上がり、どんどん安くなっていくとのこと。割引率の低いうちなら確実に買えそうだが、できれば割引率がアップしてから買いたい。
定価1万円の3割引で7000円か、まあまあ美味しいがもう一声……と思っていると、4割引の6000円になったあたりで在庫が一気に減少した。まあええか、ぼくはこのあたりが引き際と思い、ショッピングカートに急いで商品を入れ、クレジットカード決済をした。不人気な色だったが、この際、それはどうでもいい。チートコードは結局、そのあと間も無くして売り切れた。間一髪である。
チートコードはフィンガースピンやサムグラインドで遊ぶには申し分のないヨーヨーだ。でも、普通の技をやるには……ちょっと重たくて動かしづらいかなって気がする。
チートコードの重量は67.3gとやや重めである。最近、軽めのフィーリングのヨーヨーばかり使っているぼくには少ししんどい重量だ。多少、重くてもしっかり回ればある程度許せるのだが、チートコードは回転が弱くなった時のスリープの粘りがない。フィンガースピン用の大きなPOMパーツが取り付けられているせいで、重量が外側に寄せられていないためだ。回転力が欲しいなら強くスローすればいいのだけど、重いから強くスローするのもしんどい。
ストリングのタッチも重量の数値以上に重く感じるというか、切り返しがもっさりしている。シャキシャキ動く感じではない。開封直後、ぼくはその動かしにくさに少し困惑した。こういうヨーヨーを触ると、ベラ・フリースタイリン女史のヨーヨーの動かし方がどこかぎこちなかった理由がよくわかる。どうやらフィンガースピン特化型のヨーヨーは極端に動かしにくくなることがあるみたいだ。
「言いたかないが、こちとら39歳のアラフォーやぞ。回らない+動かしにくい+疲れるという三重苦のヨーヨーなんて使ってられへんねん」というのが、チートコードというヨーヨーに対するぼくのファーストインプレッションだった。
チートコードは明確な弱点を持ったヨーヨーである。チートコードを触っていて、なんとなく初代ポケモンのセレクトボタンバグ(チート)で無理矢理レベル100にしたポケモンを連想した。チートっていうのは「不正」、「インチキ」、「ズル」というような意味である。チートでレベルを上げたポケモンは弱く、見かけ上はレベル100なのだけど、パラメータが低くてぜんぜん強くなかった。そういう不正ポケモンに似た何かをぼくは感じた。
でも、チートコードはとにかくフィンガースピンやサムグラインドがやりやすい。この技に関してはまさに「チート級」。そのことだけがこのヨーヨーの存在価値である。他のヨーヨーと個性がかぶらないので、1個は持っていても良いヨーヨーだ(ぼくは色違いで2個、3個と買う気にはなれないけども)。
久しぶりにやったフィンガースピンは結構楽しかったし、思っていたよりも難しかった。しばらくチートコードで遊んでみたあと、「ああ、あんなことがあったなぁ」なんて、昔のことをいろいろ思い出した。
そして、フィンガースピンをやっている人たちをようやくフラットな気持ちで見れた気がした。チートコードはちょっと高価だと思ったけど、そういう思い出補正とか、気持ちの変化を含めると、6000円分の価値はあったように思う。でも、定価の1万円だとちょっと高いかもね。
まとめ
2024年11月初旬の時点でリワインドにはまだチートコードの全てのカラーの在庫があるみたいなので、フィンガースピン用のヨーヨーを探している人はチェックしてみてもいいかも。普通の技をやるには向いてないけど、フィンガースピンはしやすいので。もう少し安いヨーヨーが良い人はプラスチックチートコードがいいんじゃないかと思う(知らんけど)。
ただし、ホリゾンタルやフィンガースピンをやるときは周囲のモノを壊さないように気をつけて。もし、あなたがノートパソコンのディスプレイをヨーヨーで壊しても、EKT48が助けに来てくれるとは限らないからね。
ヨーヨーはオモチャなのか、それともスポーツなのか、それとも芸術なのか、そんなことを議論するのは不毛だけれど、フィンガースピンみたいな遊び方があってもいい。少なくとも、「他の人が楽しく遊んでるのを斜に構えた目で見て、横からあーだこーだ難癖をつけるのは野暮だよなぁ……」と、アラフォーになったぼくはしみじみ思う。
けいおん!
ぼくが敬愛する天才的ミュージシャンのNARASAKIさんが「集団」というアイドルユニットを立ち上げたらしい。この記事を最後まで読むくらいヒマなあなたは、せっかくなので、集団のメンバーの一人、卯花ういちゃんがギターを弾いている動画でも観ていってほしい。曲は「けいおん!」のアレだ、有名なやつだ、知らんけど。若い女の子がエレキギターを弾いている姿はとても良い。ういちゃんのことを君も応援してもいいぞ。ぼくが許可する。