コラム

yoyorecreation 「サ」

ケンヂ博士
ケンヂ博士
この記事は最近、買ったヨーヨーについての日記、のような何かである。

はじめに

ぼくは趣味としてヨーヨーやジャグリングを20年近くやってきた。一時はヨーヨーの1A部門(片手にヨーヨーを持ち、ストリングプレイを行う部門)で競技を志したこともあった。選手としては良い結果を出せなかったが、かなりの熱量をヨーヨーに注いでいたと思う。

しかし、2015年の東京都秋葉原での世界大会以降、燃え尽きを感じたりとか、仕事が忙しくなったりとか、他の趣味に目移りをしたりとかして、1Aのヨーヨーから少し離れていた。惰性でヨーヨーやジャグリングを続けてはいたものの、ヨーヨーの競技と真剣に向き合うことはできなくなっていた。特に1Aヨーヨーはほとんどプレイしなくなっていった。

ケンヂ博士
ケンヂ博士
あの頃は1Aヨーヨーに一生懸命になれなかったんよなぁ……。

2020年に結婚してからはヨーヨーのイベントに参加することも少なくなった。幸いなことに2人の子宝に恵まれ、仕事と家事と育児に大忙しの日々を送っている。

ふたりめの子供が生まれてから特にだが、趣味に割ける時間が少なくなっている。しかし、不思議なことに1Aヨーヨーに向き合う時間は徐々に増えていった。1Aヨーヨーは隙間時間にプレイしやすいからだ。1Aヨーヨーはパッと糸を指につければすぐにプレイできる。狭いスペースでもできるし、音もさほどうるさくない。メンテナンスもほとんど必要ない。そんなわけで、ここ1年ほどのマイブームは1Aヨーヨーである。

もともとの愛機(ディアスポラ、GM2)

「せっかくヨーヨー熱が再燃していることだし、いっちょ、久しぶりに新しいヨーヨーでも買おうか」とぼくは毎日のように、ヨーヨー専門店のWEBストアを眺めていた。でも、ぼくは知っている。新しいヨーヨーを買う必要なんて、ほとんどないことを。

ヨーヨー購入への葛藤

ぼくは一般人から見たら引くほどたくさんのヨーヨーを持っている。数えたことはないけれど、少なくとも50個以上はあるはずだ(倍以上あるかも知れない)。壊れたものは随時捨てているし、友人にあげたりして手放したものも多いのだけど、いまでもそれくらいの数は持っている。

それくらいの数のヨーヨーを買った人なら誰でも知っていることだけど、中級者以上のレベル帯になると、新しいヨーヨーを買ったからといって新しい技ができるようになることは少ない。多くの場合、新しいヨーヨーを買って得られるのは一時的な満足感だけで、すぐにまた次のヨーヨーがほしくなるだけだということを

でも、競技を頑張っていた頃に使っていたヨーヨーを今使ってみると、なんとなく重いと感じたり、使いにくいと感じる。結局、2008年に買ったヨーヨーファクトリーのグラインドマシーン2というオールドヨーヨーを使うことが増えた。それであまり不自由を感じないのも事実なのだ。

44CLASH限定グラインドマシーン2。側面には2008年9月24日のレーザー刻印がある。

友人のH氏も結婚した後、10年近くヨーヨーを買わなかったらしい。彼も独身時代に買ったアンダーサイズのオールドヨーヨーをずっと使っていた。なんて名前だったかな、ヨーヨーファクトリーの888に似た機種だ。思いだせない。

話を元に戻そう。ぼくはただ、なにかできない技があった時に、その技ができない理由をグラインドマシーン2のせいにしたくはなかった(ぼくはグラインドマシーン2が好きなのだ)。カジュアルに遊ぶだけなら、グラインドマシーン2があればだいたいのことはできる。でも、やっぱり設計が古いのは変えようのない事実で、最近の太めの糸とグラインドマシーン2はあきらかにマッチしない。

ぼくはオッサンだけど若者と同じ道具さえ使えば、若者と同じ技ができるんだぞ。そんな負けん気が胸のどこかに燻っていた。だから、ようやく重い腰をあげて、新しいヨーヨーを買うことにしたのだ。

しかし、ヨーヨー選びというのはとても難しい。

一度でもヨーヨー専門店のWEBストアを覗いたことのある人ならわかると思うけれど、ヨーヨーというものは製品の種類が異常なまでに多い。毎月のように新しい機種が出る世界だ。世間的にはマイナーな趣味なのになぜこんなに種類があるのか、たぶん一般人には理解できないだろう。1度しか生産しないようなものも多いから、コレクター泣かせである。

そんな多数のヨーヨーの中から、自分の感覚に合うヨーヨーを見つけるのはとても難しい。性能の高いヨーヨーは世の中にたくさんある。でも、自分がどれを気にいるかはわからない。昔は好きだった機種でもいまはピンと来なかったり、その逆もあり得る。

つまり、ヨーヨー購入というのは当たり外れのある世界なのである。使えるお金が無尽蔵にあるのなら、気持ちの赴くまま当たりが出るまで買い漁ればいいのだけど、妻や子どもたちとの将来のことを考えるとあまり無駄遣いもできない。ぼくはハズレを引きたくない。だから、毎日毎日、ヨーヨー専門店のWEBストアを眺めてはあれでもない、これでもないと頭を悩ませていたのである。

そんな葛藤の日々を過ごしてきたぼくだが、だいぶ悩んだあと、ようやく新しいヨーヨーの購入に踏み切った。結果、4種類のヨーヨーを買い、どれも満足度の高かったので、これからいくつか記事にわたって紹介していきたいと思う。

ケンヂ博士
ケンヂ博士
めっちゃいい買い物ができたわ〜

GOPAの旅と現在位置

ぼくが最近、買ったヨーヨーの1つはyoyorecreationの「サ」である。「サ」はポリカーボネート製のボディにステンレス製の金属リムを装着した、いわゆる「金リム機種」。「サ」の特徴や評価については後で語るとして、まずは購入の経緯について説明したい。

Yoyorecreation サ

タカツさんとGOPA

最近、ぼくはタカツツカサさんの動画をよく見るようになった。タカツさんはonedropというヨーヨーブランドに所属するプレイヤーで、競技シーンではなく動画投稿メインで活動されている。

https://onedropyoyos.com

onedropはアメリカのオレゴン州 を拠点としたヨーヨーブランド。onedropが他のヨーヨーブランドと違うのは、自前の製造設備を保有している点にある。最近のヨーヨーの多くはNC旋盤という機械による削り出しで作られるが、自社でNC旋盤を保有しているヨーヨーブランドはぼくの知る限り他にない。他社が設計したヨーヨーの製造をonedropが行うケースもあるようだ。例えば、yoyorecreationの一部機種はonedrop製らしい。

偏見かもしれないが、正直に話そう。ちょっと前までのぼくはonedropに対してあまり良い印象が無かった。以前買ったonedrop製のヨーヨー(当時、わりと売れていた機種)があまり自分に合わなかったためである。onedropを避けていたと言ってもよい。ぼくらの世代はyoyorecreationというヨーヨーブランドを信奉している人が少なくないけれど、「yoyorecreationの新作はonedrop製らしい」と聞くと反射的に「じゃあ買うのはやめておこう」と避けてしまう。そんな感じだった。

だから、yoyorecreation からGOPA (ゴパ)が発売されたときも冷ややかな目で見ていた。ゴパはonedrop(オレゴン)で作った、新しいジャンルのヨーヨーだったからだ。「これは多分、イロモノだろうなぁ、触らんとこ」と当時のぼくは判断した。onedrop製というのもあったが、ゴパはスペックが非常に尖っていたのだ。

普通、ヨーヨーの重量というのは63〜68グラム程度あるのが普通である。しかし、ゴパは名前の通り、58グラムしかない。1グラムの違いで大騒ぎになるのがヨーヨー界なので、ゴパの軽さは異常だ。その軽さから生み出される軽快なフィーリングの虜になったプレイヤーも多かったらしいが、家事育児に多くの時間を取られていたぼくにとっては遠い惑星のできごとのように感じられた。

ゴパの欠点は幅が他の平均的なヨーヨーよりもだいぶ狭いことである。平均的なヨーヨーだと幅42〜45mm程度が一般的で、最近は幅50mmのヨーヨーも珍しくないのだが、ゴパの幅はたった38mm。かなりの幅狭である。似たような幅の機種でぼくが使ったことがあるのは、ヨーヨージャム時代のスピーダーとか、2006年ごろに流行ったヨーヨーファクトリー G5あたりだろうか(要するに、かなり大昔のヨーヨーと同じくらいの幅ってこと)。実際問題、幅38mmでもぜんぜん使えるのだろうけど、ちょっとストレスに感じそうな狭さである。

あと、ぼくは直径の大きさも気になった。直径54mm以下のヨーヨーを長年愛用してきたぼくにとって、ゴパの直径58mm(ゴパは重さだけでなく直径も58なのだ)は大きすぎる。

(参考までにゴパ発売当時の動画や記事を貼っておく)

GOPAが発売された当時のビデオ
https://spingear.jp/blog/2022/02/01/gopa/
当時のゴパの紹介記事

ケンヂ博士
ケンヂ博士
正直、ステルスレイダー的って言われても買う気になれへんくない?

GPPR

というわけで、ゴパはどうせイロモノだろうと思っていた。というか、あまり興味がなかった。ミウラハジメ選手が1Aで大会参加するために開発されたブラーオートスコピー(ゴパの亜種)にも食指がそそらなかった。すごいフリースタイルなのはわかるけど、これってヨーヨーじゃなくてミウラハジメ選手がすごいだけなんじゃないの?とかね。

ブラーオートスコピーを使用したミウラハジメ選手の 1Aフリースタイル

どうやら回転力を維持したままヨーヨーを軽量化するには、幅狭という業を背負わなければならないらしい。であれば、軽量ヨーヨーなんていらない。

ぼくはそういう認識だったから、その次の作品、GPPRで60g未満という重量を維持しながら、幅を44mmまで広げてきたのには大きな衝撃を受けた。

GPPRの紹介動画

GPPRはゆるやかなラウンド形状のメタルボディにポリカーボネート製のプラスチックリムを搭載したヨーヨーである。おそらくGPPRという名称はGOPA PLASTIC RIM(ゴパ ・プラスチックリム)の略であろう。ヨーヨー業界では外周部に比重の高い材料を配置し、慣性モーメントを稼ぐ設計が一般的だが、GPPRでは逆に比重の軽い材料を外周部に配置している。この一見、不利な構造をあえて採用することで、ゴパのフィーリングを保ちながら幅を広くすることに成功したというのだ。この発想に驚いた人はきっとたくさんいるだろう。

ぼくはこの時点でかなりGPPRのことが気になっていたが、「やっぱり直径59mmはデカいよなぁ〜」と思っていた。内心、かなり欲しかったのだが、買わないことを選んだ。

新作ヨーヨーラッシュ

そこから、キドケンゴ氏のゴパの旅はさらに続いた。「フラッフィーフラッフィー」と「ケ」の2機種を連続でリリース。さらに「コミックサンズ」の亜種、「CS61」もリリース。yoyorecreationの新作軽量ヨーヨーのリリースラッシュがとんでもないことになっていた。

このころのぼくはすでにタカツさんの動画のファンになっていて、毎週必ず動画をチェックしていた。ヨーヨー関係の集まりから足が遠のいていたぼくにとってはめちゃくちゃ面白くて刺激的な内容だった。また、自分の中にあったonedropに対する偏見が徐々に小さくなっていくのも感じていた。

だけども、なんだかんだと理由をつけて、ぼくはどれも買わなかった。「別に新しいヨーヨーなんか買わなくても、ヨーヨーは楽しめる」とぼくは強がっていたのだ。

たしかにその通りである。その通りなのである。ぼくは学生時代に貧乏をしたせいか、社会人になっても倹約志向、武士は食わねど高楊枝なのである。

そんなぼくにとって「ケ」のような高級チタンヨーヨーを試し振り無しで買うのはかなりのギャンブルだ。だって「ケ」って、6万円くらいするんでしょ?ほしいけど、妻子持ちが気軽に買える金額じゃないよ……みたいな感じで、ぼくは忙しい毎日の中、「新しいヨーヨーを買うor買わない」という、世間一般の人にはあまり理解されないであろう、しょうもない悩みでずっと葛藤していた。ある意味、平和である。

お嫁様
お嫁様
6万円はさすがにあかんでしょ

サ+新メンバーの発表

2024年の世界大会の前後、タカツさんがアップした動画はyoyorecreationの新作に関するもので、ミウラハジメ選手の新シグネイチャーモデル 「リミナルオートスコピー」、「PSオートスコピー(PC/POM)」の紹介動画だった。

どれも良さそうなヨーヨーだったが、なにやら意味深な次回予告をしていた。次回は「新型ディフュージョン」や「Mgディフュージョン」の紹介なのかな?と思っていたのだが、何週間か連続で、無関係な動画がアップロードされた。タカツさんの動画のアップは1週間に1本程度。ヤキモキしながら、続報を待った。

そして、ついに出たのだ。yoyorecreation軽量ヨーヨーシリーズの最新作であり、Team yoyorecreation新加入メンバー サガショウタ氏のシグネチャーモデルである 「サ」というヨーヨーが。

これには一瞬でやられた。サガショウタ氏は極めて優れたレベルのトリックイノベイターだ。「ケ」の金属リム版が1万円前後で買えるなんて、ヤバすぎる。標準的なサイズで軽量を実現していて、しかも「ケ」よりも断然、安い。

買うしかないと思った。WEBストアに入荷されていないか、毎日チェックした。「サ」の1stロットはブルーとクリアの2色展開だったが、ぼくが入荷を確認した時点でブルーは売り切れていた。ぼくは迷いなくクリアをカートに入れて、即座にクレジットカード決済をした。

お嫁様
お嫁様
ヨーヨーが1万円以上するのは安くないのでは……?

サのレビュー

数日後、宅配便が届くまでの間、わくわくしてたまらなかった。実際に使ってみて、すぐにぼくは理解した。「これはとんでもないヨーヨーだ」と。

yoyorecreationはすごい。消費者の予想を良い意味で裏切る。昔からすごいメーカーだったが、いまの勢いはほんとうに凄まじい。飛ぶ鳥を落とす勢いとはこういうことを言うのではないか。

ようやくだけど、「サ」のレビューをしよう。

最近のぼくは「サ」を毎日、楽しんでいる。「サ」はほんとうにハッピーでゴキゲンなヨーヨー。

「軽量だけどステンレスリムだからパワーがあって……」とか「フィンガースピンやプルスタートもできて……」とか、いろいろ細かいことを並べ連ねることもできるんだけど、そんなことよりも「サは振っていて楽しい、心地よい、不快感がない」ってことを伝えたい。

ヨーヨーのことをあまりよく知らない妻も「そのヨーヨーを使っている時のあなたは楽しそう」とか、「なんか動きがキビキビしていて速い」と言ってくれる。

お嫁様
お嫁様
(楽しそうだから、まあいいか。)

糸は太いものより細めのほうがマッチする。今回、hkmt equipmentのTORUストリングを試してみたのだけれども、これはサと相性バッチリだ。最近、他のヨーヨーではTAKESHI STRING v3を愛用しているのだけど、これは軽量ヨーヨーにはちょっと合わない。

こういうタイプの人には「サ」はオススメしない、というのにも触れておこう。

ヨーヨーのコントロールがあまり上手くない初中級者の人は「サ」を持て余すかもしれない。サは上級者にとっては最高のヨーヨーだが、ピーキーな部分がある。扱う人によっては「ただただ回らないヨーヨー」になりかねない、そんな危うさがある。

また、ホリゾンタルトリックを得意とするプレイヤーにとってはパワー不足を感じるかもしれない。ホリゾンタルトリックはロングスリープを必要とすることが多いので、最軽量機と本質的に相性が悪いジャンルだろう。ただ、ホリゾンタルがしたいなら別のヨーヨーを使えばいい。それだけだ。

さいごに

yoyorecreationのオーナー、キドケンゴ氏は「サ」に関して、こんなことを言っていた。「ときたま、ヨーヨージャムがかつて作っていたヨーヨーを現代的な設計で、きちんと作り直しているだけのような気持ちになる」と。

「サ」のヨーヨージャムっぽさが、ぼくはめちゃくちゃ好きだ。20年近く前に触っていた、あの頃のヨーヨーはこんなにすごいものではなかったけども、あの頃を知っている人ならこのなつかしさがわかるはず。

やっぱりジャムっぽいですよね。

yoyorecreationのますますの発展と、サガショウタ氏のさらなる飛躍を祈念します。

ABOUT ME
ケンヂ博士
高橋 健治。某工業高専出身のアラフォー工学博士。 東北生まれのエセ関西弁話者。研究者として日系メーカーに10年以上勤務。数学、制御工学、電気工学、パワエレ、プログラミング、ヨーヨー、将棋などがそこそこできるマルチプレイヤー。大阪府の端っこで、お嫁様+2人の娘たち+4匹の金魚.etcと暮らしている。

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